日本列島は山紫水明の緑豊かな豊穣の国土ですが、世界的にも例を見ない脆弱な地形・地質環境下にあり、地震、火山災害や土砂・岩盤の崩落事故、地すべり等、常に危険と隣り合わせの災害立国と言っても過言ではありません。私たちは、このような状況の中で、豊かで安全な国土のマネジメントのために日々努力しています。
■何の為に調査するの?
地質調査は目的別に学術的分野、資源開発分野、建設事業分野に大別されますが、最も身近なものは、国土の開発や保全を目的とする建設事業のための地質調査でしょう。
ビルを建てたり、道路や橋などをつくる場合には、その構造物が壊れたり、沈下して傾いたりしないように地盤を十分に調べることが必要となります。特に狭い日本では地盤の軟弱なところや山地、傾斜地などに構造物をつくらざるを得ない場合が多く、地震や風雨の災害の多さも手伝って、地質調査は非常に重要なものとなります。
ガリレオの落体実験で有名なピサの斜塔は作っている途中で傾き始めました。当時(1370年竣工)は地質調査の技術力がなく、不同沈下(建物が同じ沈下量でなく部分的に沈下が大きい場所があること)が生じることも知りませんでした。現在作るとすれば、地質調査を行って沈下の生じない工法を考えますので、ピサの斜塔はただの鐘塔で、あれ程有名にはならなかったでしょう。ピサの斜塔は現在倒壊の危険にさらされていますが、その対策工には地質調査が一役かっています。
■どうやって調査するの?
地質調査は一握りの土の分析から、地球内部を推定するようなものまで、調査対象は様々であり、調査の方法も多種多様です。
地質調査で最も一般的なもののひとつにボーリング調査があります。ボーリング調査は、実際に地下を掘削し、地下の土や岩のサンプルを直接観察したり、打撃による強度的な試験をすることが主ですが、同時にそのボーリングの孔内で様々な原位置試験を行うことにより、さらに詳細に地盤の強度、変形特性や透水性等を求めることが出来ます。また土や岩等のサンプルを持ち帰り、室内で物理試験や力学試験を実施することも有用な方法です。
最近では地層や地下水汚染が深刻な環境問題として取り上げられていますが、これらに化学的な分析を加え、より緻密な総合的な解析をすることにより、汚染原因の究明や汚染の予防、汚染の除去に有益な情報の提供が可能となります。
また、物理探査では直接サンプルを得ることなく、振動、音波や電気等を地下に流して、地層構成等を推定することが可能であり、近年新しい調査方法が続々と考え出されていますが、同時に実際に現地周辺を踏査して得ることのできる地表の情報も、地下を推定するための非常に大切なファクターとなります。
■何が分かるの?
地質調査をする事により、理学的な情報や工学的な情報を得る事ができます。
岩種、年代、断層の位置、堆積した環境、地層の分布状況等が理学的情報にあたります。例えば、地層中に含まれる石から堆積時は流れが速かったとか、流された距離は長かったか等、その堆積環境を知ることができます。また地層がどの様に傾いているか等を計測することで、実際に掘って調べなくてもその地層の分布深度等を推定したり、地形図や航空写真判読により断層を推定することができます。
強度等の土質定数、透水性等の水理定数等が工学的情報にあたります。工学的情報からは構造物の基礎の形状や荷重を支持させる地盤等が決定できます。また構造物をつくった時、どの程度沈下が生じるか、大きな地震が起きた場合、どのような影響があるかなどを検討し、構造物の重要性に応じ、設計に反映できます。
地下水に関しても、地下水位、透水性や揚水量などを知ることにより、構造物自体への影響や施工時の地下水の影響が推定できます。
私たちは地質調査によって得られるこのような様々な情報を組み合わせ、必要に応じて解析業務を行い、学術的分野、資源開発分野、建設事業分野の多様な目的に応えています。 全国地質調査業協会連合会では地質調査の定義を『地質、土質、基礎地盤、地下水など地下の不可視部分について、地質学、地球物理学、土質工学などの知識や理論をベースに、地表地質踏査、物理探査、ボーリング、各種計測・試験などの手法を用いて、その「形」、「質」、「量」を明らかにすること』としていますが、私たちはこれからも、これまでの知識や理論をベースに、さらに社会に有益な調査結果を提供し続けることを惜しみません。
■名港トリトン
名港トリトンは,伊勢湾岸自動車道のうち名古屋港を通過する部分の三つの斜張橋の愛称であり、将来は第二名神高速道路と第二東名高速道路に接続され,中部圏の交通網を形成する重要な道路で、シンボリックな存在となっています。
トリトン(Triton)というのは,ギリシャ神話にでてくるポセイドンとアンピトリテの息子で,半人半魚の海の王子の名前であり,しばしば三又鉾(みつまたほこ)を振りかざして波を鎮めたと言われています。
この名港トリトンの名称は,公募されて選ばれました。

中央大橋

西大橋

東大橋
名港トリトン地下の地質は,上から南陽層,熱田層,海部弥富累層,東海層群の順からなり,様々な検討の結果から,橋の塔の基礎として海部弥富累層〜東海層群が選定されました。
基礎にはニューマチックケーソンが採用され,その深度は、西大橋がTP-約40m,中央大橋がTP-約50m,東大橋がTP-約30mであり、大深度となっています。

■安房トンネル
(1) 安房トンネルの概要
安房トンネルは,一般国道158号中部縦貫道(福井市〜松本市L=160km)の最大の難所となっている安房峠(標高1,790m)を4,370mで貫くトンネルです.安房峠は,北アルプスの火山焼岳と乗鞍岳の間に位置しています.火山特有な脆弱な地質のため,旧国道158号の安房峠では,降雨による交通規制が必要な区間であり,また11月中句より5月上句迄積雪により通行が完全に途絶していました。
そのため昭和39年より調査が始められ,昭和53年に事業化されました。
昭和55年より調査坑が掘削され,平成元年より本坑が着工されました。平成9年12月6日,調査開始から33年,調査坑着工から18年かけて安房トンネルを含めて安房峠道路6.3kmが完成しました。

(2)地形・地質概要
安房峠は北アルプスの焼岳と乗鞍岳の間の峠で、安房トンネルの北側700mに溶岩円頂丘よりなるアカンダナ山(標高2109m)が位置しています。
安房トンネル周辺の地質は,中・古生代の美濃帯の粘板岩,チャート,砂岩等より構成されています。アカンダナ山の下には深い埋没谷が存在し,この埋没谷をアカンダナ山の火山堆積物(溶岩や凝灰角礫岩等)が埋めて堆積しています。中・古生層の弾性波速度が4.2〜5.5km/secを示すのに対し,火山堆積物は2.5km/sec程度を示すため,工事関係者は平湯低速度帯と呼びました。

(3) トンネル施工上の間題点と地質調査
安房トンネルの特異な地質から特に次の点が間題となりました。
- 中ノ湯側の火山ガスと高熱帯
- 火山堆積物(平湯低速度帯)からの湧水 等
これらの間題点を調査するため,トンネル施工基面迄の深い調査ボーリング(最深620m)行なわれました。また,地下水・温度・火山ガス等の状況を調べるため,地下水の調査,地熱調査,火山ガス(ガス分析)等が実施されました。
(4)調査結果と施工
中ノ湯側坑口では火山ガスの濃度や温度の分布が明らかになり,中ノ湯側の坑口の位置は,最も火山ガスが少なく温度の低い位置が検討されました。それでも高熱帯や火山ガスの存在が予想されました。
平湯低速度帯ではトンネル掘削に伴い大量の湧水が予測されました。
調査坑は全断面掘削の在来工法で掘削されました。中ノ湯側では75℃の高熱が確認され,火山ガスは予想より低い濃度であることが確認されました。平湯側では、昭和62年7月には火山堆積物の掘削で180トン/分の突発湧水で半年間工事が中断し、4本の水抜坑や大量の水抜きボーリングが掘削されました。
出典:中部地質調査業協会研究委員会編,平成11年5月「中部地質調査業協会平成11年度技術研修会資料集」)
■中部国際空港
(1)概要
中部国際空港は、24時間運用可能な国際空港として、愛知県常滑沖に建設され、2005年2月20日に開港しました。中部国際空港の開港により、国内はもとより海外との航空ネットワークが充実し、日本の玄関として国際交流拠点の役割の一翼を担うことができるようになりました。又、地域の観光拠点としての知名度もアップしてきています。
中部国際空港は、名古屋都心部まで30〜40分のアクセス環境にあり、シーバスなど多彩な交通手段を用いて東海各地へのアクセスも容易です。
これらの利便性を生かす事で、世界主要都市産業との近接性に富んでいる事から、次世代型の産業拠点としての活躍に大きな期待が持てます。


(2)地形・地盤調査の概要
平成5年3月から6月にかけて、空港建設予定地周辺海域における深浅測量、土質調査および音波探査が実施されました。
深浅測量は、海底地形を把握する目的で、間隔200mと100mの格子状の測線を設定し、延べ約1、000kmで実施されました。
土質調査は、海底地盤を構成している地層の性状や分布を直接確認すること、ならびに土の物理的性質や形成年代等を把握するために実施されました。
音波探査は、土質調査で明らかとなった地質構成を参考に、調査海域全体の地質分布状況・地質構造を把握すること、なかでも空港島の配置検討に重要な意味を持つ、伊勢湾断層の位置・性状を把握することを目的として実施されました。
(3) 空港建設地の地形・地質
空港建設地及びその周辺海域の海底は、鬼崎沖から小鈴谷沖の「トーガ瀬」から「広瀬」に至る範囲に幅1.5〜2.0kmの海食台状地がみられ、水深7m前後の平坦面を形成しています。これらの平坦面は所々堆積物からなる起状を含み、浅い箇所では水深3m前後となっています。海食台状地の東側には、比高差が3〜5m程度のほぽ南北方向に連続する海底谷が発達し、海食台状地の西縁部は水深15m以深の沖合緩斜面へ移行する海底急斜面となっています。
この海食台状地は、薄く沖積層が覆うものの、主に東海層群常滑累層によりなっています。東海層群常滑累層は、新第三紀鮮新世に形成された地層で、N値は50以上、層厚は400m以上とも700mとも言われ極めて厚い層厚を有し、良好な支持層です。
下図には空港島標点付近の地質推定断面図を示しています。固結シルト層(Tc)と砂質土層(Ts)の互層からなる常滑累層(T)を基盤として、その上位を洪積層(D)・沖積層(A)が覆っています。洪積層は砂礫層(Dg)からなり、沖積層は上部:砂質土層(As1)、中部:粘性土層(Ac1)、下部:砂質土層(As2)と粘性土層(Ac2)の互層という地質層序を呈しています。
断層があり、いずれも垂直成分平均変位速度0.28〜0.46m/千年の範囲で、数千年おきに活動を繰り返すB級の活断層に分類されます。

(4)護岸の構造
空港島の護岸は、海域環境に配慮した捨石式傾斜護岸を主に採用しています。また、波あたりや波の反射の強い場所には、消破ブロックなどを前面に配置し消波機能を高めるとともに耐波性を向上させた構造となっています。船舶などの係留施設前面は、水深確保のために直立構造となっています。

(5) 埋立工事
空港島は、面積薬80haの人工島であり、所定の海域に約12kmの護岸を築造し、その内側を浚渫土を主とした埋立土(建設発生土も受け入れる)で造成されました。山土については護岸等の概成後、土運搬船により直接投入する方法、揚土船により直接揚土する方法、および揚土した土をダンプトラック等で運搬し、間接揚土する方法を組み合わせて行われました。また、浚渫土については、護岸を締め切った後、圧送船を使用し埋立が行われました。




(6) 関西国際空港第1期との比較
中部国際空港の当初事業計画と関西国際空港の第1期の公表資料に基づく比較表によると、中部国際空港は、空港島建設海域の平均水以深が深いことおよび軟弱地盤(関空の場合、沖積層のみならず洪積層)の圧密沈下量が大きいことが、事業費に大きな差が生じた原因とされます。


